変態は本を読め
「変態は本を読め」。
そしてとどまってくれ。
変態を拗らせれば拗らせるほど、人生は迷走しがち。
孤独も感じがち。
だからこそ、本を読んでくれ。
本の世界には変態が溢れている。
偉大な文学者だって、偉大な政治家だって、みんな変態だ。
だから、変態こそ本を読んで救われてください。
変態から読書家まで、広く楽しめるラインナップを、
変態歴20年、Twitter歴2年強、凍結歴1回(未だ凍結中)、「変態文学」という謎ジャンルで総フォロワー数1万人超の文学好き北大生が紹介しました。
下にいくほどダメな人にはダメ、な内容になってますのでお気をつけて。
【マゾヒズムの真髄】遠藤周作『月光のドミナ』
- ジャンル:マゾヒズム
- あらすじ:マゾの主人公(♂)の半生、あまりにも哲学
- 長さ:43ページ
- 対象:マゾヒストの真髄を知りたい人
「オススメ変態文学は?」
と一年間に50回くらい聞かれるうちのほとんどにコレと答えています。
『沈黙』の映画化で最近世界的に注目を受けた大文豪・遠藤周作先生の完全なる「マゾ解説本」。
超勝手に「三大マゾ解説本」の一つに選んでいます。
「本当の快楽は苦痛よりも凌辱の方にあると思っていますよ。」
ー遠藤周作『遠藤周作文学全集2海と毒薬月光のドミナ』新潮社
痺れますね・・・
マゾはただ痛いのが好きなだけじゃない、虐げられている状態を好む精神的な性質だ、と。
さすがマゾ界の大御所。含蓄が違います。
マゾで困っている方、マゾの心理を理解したい方、マゾに興味のある全ての変態必読ですヨ。
ちなみに、「三大マゾ解説書」の残り二つは、漫画の『殺し屋1』と谷崎潤一郎『日本に於けるクリップン事件』です。
【女性同士ならではの官能】谷崎潤一郎『卍』
- ジャンル:♀×♀×♂
- あらすじ:夫を持つ女性が妖艶な女性と恋に堕ち、破滅へ向かう
- 長さ:230ページ
- 対象:綺麗な女と地獄に堕ちたい人
下手すりゃ人の人生狂わせる本です。
あまりにも美しい女性同士の恋の物語。
特にはじめて裸を見せ合うシーンなんて、天国にいるのかな?と思ってしまうような神々しい美しさ…
私はこれを読んで速攻、女性同士の出会いの場に飛び込んでいったんです。
危険な本ってのはその人の本質を引き出してしまう本のこと、みたいな言葉を昔見たけど、
そういう意味ではこのラインナップの中でも一番危険かもしれない。
そして美しいだけでは終わらないのもやはり文豪・谷崎潤一郎の世界観。
「破滅」まで含めて、憧れてしまうような、文豪のとっておきの官能世界を堪能してください・・・
【人をやめる幸福】レアージュ『О嬢の物語』
- ジャンル:マゾヒズム
- あらすじ:恋人に連れられて絶対服従の館に来た主人公を待ち受けていたのは、狂気のマゾ人生だったが、次第に主人公も支配される歓びに目覚めていく…
- 長さ:250ページ
- 対象:人間であることに疲れてきてる人
言わずと知れたSM小説。
単なるSM小説と侮るなかれ。
こちらの「序—奴隷状態における幸福」という優れた前書きでのこの本についての評価を御覧ください。
単なる心情の吐露というよりは、むしろ論文
ーポーリーヌ・レアージュ『О嬢の物語』河出文庫
そうなんです。これ、考察レベルがやばいんです。
もちろん凌辱シーンも多く、SM官能小説としても優れています。
しかし、主人公が「奴○状態における幸福」に目覚めていく様が実によく描かれていて、「論文を思わせ」るんですね…。

前にこーんなツイートがバズったのですが、
人は主体的であることに疲れた時、マゾヒズムに目覚めていくのかもしれないですね。
SMとしても楽しめ、マゾ心理考察としても楽しめる最高の一冊です。
※この二つじゃ物足りねえ!って人は、沼正三の『家畜人ヤプー』全5巻でも読んで本気の人体改造・SM世界にでもトリップしてな!
【発散できない欲望】川端康成『みずうみ』
- ジャンル:抑圧
- あらすじ:尾行癖のある男の、汚れと憧れ
- 長さ:140ページ
- 対象:発散できない欲望を持っている人
これは、リスペクト故なのですが、
今まで読んだ本の中で一番、
一番、ドン引きしました。
勘違いしないで欲しいんですが、これは本当にリスペクト故なんですよ・・・
私は川端康成大先生が大好きで大好きで・・・
毎回、「美しいーーーーー!!!」「天才だーーーー!!!!」「どうなってんだーーー!!!」
と叫ぶ時間が発生するので他の本の二倍読了に時間かかるほどなんですよ。
でも、本当にこれは一番ですね。
あらすじそのままなのですが、尾行癖のあるおじいの話で。
彼の言い分では、
女の後をつける美しい戦慄と恍惚
川端康成『みずうみ』新潮文庫
とのことで、
物語全体としては特にそこまで悪いことはしてないのですが、何かヤバい臭いが・・・
この世の果てまで後をつけるというと、その人を殺してしまうしかないんだからね。
川端康成『みずうみ』新潮文庫
この一文を見た時、私は、先生に文才がなかったらどうなってしまっていたのだろう・・・と思わずにはいられませんでした。
そういう感想が出るということは、この本に、救われる人がいるということなんですよね。
抑圧され、発散の場を失った欲望を持つ変態たちに是非読んでほしい傑作です。
【飽くなき性の冒険譚】マルコ・ヴァッシー『トコ博士の性実験』
- ジャンル:SM、覗き、機械etc.
- あらすじ:飽くなき探求心のため、トコ博士の元に性実験の参加者として訪れる話
- 長さ:240ページ
- 対象:探究心に人生持ってかれてる人
愛する絶版官能小説文庫「富士見ロマン文庫」よりこちらを選出・・・
神秘的な研究に専念する主人に
仕える感受性豊かな従者を求む
マルコ・ヴァッシー『トコ博士の性実験』小鷹信光訳、ロマン文庫
こんな張り紙あったら絶対行っちゃうよね?人生投げ捨てて行っちゃうよね??
そんな張り紙に人生棒に振っちゃう主人公(♂)のお話です。
張り紙の先に待ち受けていた博士の性の哲学は深淵よりも深く・・・
そこでこの世の全てとも思われるような倒錯の数々を実験として主人公は体験していきます。
「性」こそが人間の「生」だと確信めいたものを持つ我々のような人間に、
トコ博士はひとつの回答を与えてくれるはずです。
いわゆる「性愛小説」のくくりになりますが、
「一度読んで忘れる」
というようなことのない、素敵な読書体験になることでしょう・・・
【汚物愛好と小さな死】バタイユ『眼球譚』
- ジャンル:汚物愛好、球体愛好、変態哲学
- あらすじ:球体を穴という穴に入れてしまいがちな少女との汚物にまみれた少年時代
- 長さ:120ページ
バタイユは、変態の最終形態みたいな作家です。
経済学やら哲学やらの人でもあります。
当然クソ強い変態哲学を持っているので誰も勝てません。
まさに、「バタイユしか勝たん」という感じです。
彼の代表作である本作は、恐らく変態界のリトマス紙的な役割を果たす作品です。
官能への欲求があまりに烈しいため、些細な刺戟にも表情は一変し、血行は早まり、突然の恐慌に襲われ、犯行へと、幸福と安泰をいつまでも破壊しつづける行動へと突っ走るのだ
ーバタイユ『眼球譚 マダム・エドワルダ』生田耕作訳,講談社文庫
これでやべえと思った人は逃げてください。
「これだ!」と思った方はこちらへどうぞ…
幸福と安泰を破壊し、官能に突っ走り、「小さな死」=「オーガズム」を得ることに全集中するものだけが見る世界へ・・・
あらすじは、ふざけて書いてるわけではなく、ほぼそのままです。
エロさだけを求めて読むとヤケドする、フランスエロスの傑作です。
【切腹と、少年愛】三島由紀夫『愛の処刑』
- ジャンル:ヤンデレ、切腹、男色
- あらすじ:ヤンデレの美少年に魅入られた体育教師、幸せに包まれながら切腹で死す
- 長さ:短め
- 対象:厨二病を患っている人
こちら、今回紹介するものの中では一番マイナーだと思われます。
三島由紀夫が別名義で男色雑誌に投稿したとされているもので、あの代表作『憂国』の元ネタと言われているものです。
「好きだよ。なァ、好きだよ。君の命令だから、俺は喜んで死んで行くんだ。俊ちゃん、君のために俺は立派に死ぬぜ。」
ー三島由紀夫『三島由紀夫全集 補巻』
というふうに、美少年のために切腹で死ぬという、三島由紀夫のフェチ全開の本です。
腋毛や筋肉の描写がなんとも、女性の描く男色と違ってリアルで変態的です。
そしてあらすじでもお分かりかと思われますが、とてもとても厨二病的です。
漫画化したらバズりそうな勢いあるストーリーでありながら、きちんと文学。
文豪の贈る、完成度の高い変態世界を堪能できちゃいます。
高いので、図書館で『三島由紀夫全集 補巻』を借りてきて読むのがベター。
【地底の楽園】江戸川乱歩『盲獣』
- ジャンル:触覚フェチ
- あらすじ:盲目の男が究極の触覚を求めて作り上げた地下の楽園
- 長さ:150ページ
- 対象:閉鎖された異空間に行きたい人
江戸川乱歩作品はたくさん読んでいるけれど、今年読んだコレがまた衝撃的な変態的でした・・・
主人公(♀)が自分をモデルにした裸体像の展示を見に行くと、這うようにそれを撫で回す不気味な盲人を発見してしまう・・・
といういかにも「はいはい猟奇事件がはじまるよ〜」なオープニング。
「さすが乱歩先生!」な、ずば抜けたストーリー性はいつもながら、
盲人の所有する「触覚の楽園」の描写が凄まじく、思わずゾワゾワとしてしまいます・・・。
主人公(♀)が冒頭で味わった、
大理石像と彼女自身の肉体とが、異様にこんぐらがって、男の不気味な手のひらが、直接わが肉体を撫で廻しているかのように感じられるのだ
江戸川乱歩『盲獣』創元推理文庫
という感覚を、読者の我々も味わえてしまう・・・
不気味かつ俗悪、猟奇度もかなり高めな作品ですので苦手な方は注意!
【刺激中毒者の秘事】宇野鴻一郎『公衆便所の聖者』
- ジャンル:男根崇拝、スリル
- あらすじ:公衆便所にあいた穴の向こうで待ち受けている者は…
- 長さ:20ページ
- 対象:刺激中毒者
芥川賞受賞作家でありながら、官能小説家に転身した宇野鴻一郎のヤバい本。
これが好きですきで、、、ことあるごとに紹介していたら昔91円で買ったはずのこのアンソロが2300円になってしまっていてびっくりです・・・
公衆便所の壁にあいた穴、女性器の絵のその中央にあいた穴に、男性のモノが入れられるのを待っているおじさんの話。
われわれと異質な変態どことか、汚辱のうちでひたすら充実したものの訪れを待つ、われわれ虚しい人間のあり方の、これ以上は考えられぬ端的な象徴ではなかったのか。
宇能鴻一郎「公衆便所の聖者」『いま、危険な愛に目覚めて』集英社文庫
変態的な行為と、男根崇拝、そして能動的であろうとする虚ろな人間・・・
なぜ刺激に飢えるのか、なぜ倒錯的なものに惹かれるのか、なぜ、卑しいものを慈しむのか。
「変態」の本質に迫るこの短編を私は愛おしく思います。
穴があったら入れてみたくなる男性のみなさんや、穴があったら口を開けて待ってみたくなる変態の皆さんは是非。
【獣以下の屈辱】皆川博子『獣舎のスキャット』
- ジャンル:ケモノ
- あらすじ:ネタバレすると面白くなさそうなので割愛
- 長さ:30ページ
- 対象:ケモノ以下に堕ちたい人
皆川博子先生の、文庫にはなかなか収録できなかった悪趣味短編を集めた、ふしぎ文学館『悦楽園』収録。
中でも悪趣味に定評のあるこちらは、ジャンルだけ言うと「ケモノ」です。
「ケモノ」ということをバラしてしまった以上、それ以外の全てを少しでも話すと甚だしく面白さを損なう恐れがあります。
なので多くは語りません。
が、この本紹介の最後二つを飾るにふさわしい変態ぶりを発揮している本になっております…
なお、この『悦楽園』、変態がよだれをたれながすような濃密エロスの作品ばかりです。
しかも新しめの本なので読みやすいです。
紙だと入手困難ですが、Kindle版あるのでオススメ。
【交われども、孤独】アンリ・バリュビュス『地獄』
- ジャンル:覗き
- あらすじ:覗き穴から見た、性愛の地獄
- 長さ:340ページ
- 対象:悟りたい人
最後になります。講談社の連載でも紹介しました。
開高健がオナネタに使いまくったやつです。
最後にしたのは、インモラルだからではなく、絶望度が高すぎるからです。
壁の穴を覗くとそこには愛欲の世界が・・・!
というと聞こえは変態チックだし、実際に変態的ではありますが・・・
ぼくは肉の愛を讃美しない。肉の愛では、愛というものは孤独で赤裸々だ。ぼくはまた、その遮二無二の利己的な激情を好まない。それは下劣に思われるほど一時的だ。だが、愛欲がなければ、ふたりの人間の結びつきは常に弱い。
アンリ・バリュビュス『地獄』田辺貞之助、新潮文庫
読後、ちょっと寝込みそうになりました。
寝込みそうになるほど性愛を考察したい、という究極の変態の方へ。
講談社での記事はコチラ

終わりに
大分濃ゆいラインナップになりました。
いろんな変態に楽しんでもらえるような選出になっているかと思います。
しかし世の中にはまだまだ変態文学があり、私はそのオタクなので、これからもどんどんオススメしていきたいと思います(/・ω・)/
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